むかしむかし、ある小さな庭に、 ぽろりと落ちたざくろの実がありました。
「明日、あげるね」 そう言ったのは、忙しい忙しいおとこのひと。
でも、次の朝になると、 ぽろりと忘れてしまいました。
待っていたのは、おんなのひと。 彼女は言いました。
「また、約束を忘れたのね」
でも、怒る代わりに、 ふわりと笑いました。
なぜなら、彼女は知っていたからです。
忘れることも、 待つことも、 どちらも心の色だということを。
おんなのひとは、庭に出て、 ぽろりと落ちたざくろの実を手に取りました。
「あなたが忘れても、この実はここにいる」
ころりと転がる実は、 赤い宝石のようでした。
中には、きらりと光る種がたくさん。
一つひとつが、 忘れられた約束の形をしていました。
彼女は、ざくろを割りました。
ぱりんと音がして、 甘酸っぱい香りが広がりました。
「これは、 あなたが忙しすぎて言えなかった『ごめんね』」
「これは、 私が待てなかった『寂しかった』」
種を一つずつ、 ふわりと土に埋めました。
次の朝、 おとこのひとは、また約束を忘れました。
でも、庭には、 ぽろりと小さな芽が出ていました。
「なんだか、 いい香りがするね」 彼は言いました。
おんなのひとは、 ふわりと笑いました。
「忘れた約束も、 ちゃんと芽が出るのよ」
めでたしめでたし
でも、物語はまだ終わらない。
次の春には、 ざくろの木が、 ぽろりと新しい実を落とすから。