中学生の少女A。
少女Aは胎児の頃から悟っている。
しかしA自身は、自分が悟っているなんて思ったこともない。
悟りという言葉すら知らない、思春期真っただ中にいる少女だ。
Aは髪を茶色に染めている。理由は簡単だ。黒がつまらなかったからだ。
単にそうしてみたかったのだ。
先輩といわれる者たちはAが気に食わない。生意気だと言う。
ある日Aは先輩に呼び出された。
Aが呼び出されたのは、学校の脇にある神社の境内の裏だった。
そこに到着すると、数人の女の先輩がAを睨みつけて立っていた。
そしておもむろにAの髪を鷲掴みにし、Aを土下座させた。
Aに詫びさせようとするが、Aは頑なに口を開かない。
そのAの様子に腹を立てた先輩たちは、コンクリートの上で正座しているAの背中を足で蹴飛ばした。
蹲るAの背中を複数の足が容赦なく蹴飛ばす。
Aは謝れと言われても謝らず、泣けと言われても泣かない。ただ時が過ぎるのを待っていた。
どれだけの時間が経ったか分からないが、呼び出されたのは明るい時で、事が終わった時は夕暮れだった。
Aはどう帰宅したのか記憶がない。
自宅につき、母の鏡台の前でセーラー服を脱ぎ、鏡に背中を映したところから記憶が戻っている。
Aは、背中一面に真っ赤な靴の跡が残っていることに気づいて、唇を噛み締めた。そして黙って姉の部屋に入った。
姉と目が合った瞬間、Aの目から涙がこぼれ落ちた。その様子を見て、Aの姉はAよりも泣いた。
お互い一言も言葉を交わすことはなくとも、非言語での会話がなされていた。
Aの涙に悲しみはない。物理的な反応として流れているだけだった。
Aの姉の涙は、Aに宇宙の約束を思い出させるものだった。
Aはその約束が何かも知らないし、その何かを思い出したことも気づいていない。
しかし、A姉の涙を見て、確かに深く癒され、確かに解放されたのだった。
Aと宇宙の約束は、Aが大人になっても飛び続けられるようにしてくれるという約束だ。
そして実際、Aは大人になっても羽を失うことはなかった。
悟っている者の羽は、全てを光に変える力を持っている。
Aは何も知らないまま、全てを光にして生きている。